MQTT クライアント属性
EMQX のクライアント属性は、開発者が異なるアプリケーションシナリオの要件に応じて MQTT クライアントに追加属性を定義・設定できる仕組みを提供します。これらの属性は、EMQX 内での認証、認可、データ連携、MQTT 拡張機能の強化に不可欠であり、柔軟な開発を支援します。クライアントのメタデータを活用することで、MQTT クライアント識別の柔軟なテンプレート化も可能となり、個別のクライアント設定や認証プロセスの効率化に寄与し、開発の適応性と効率性を高めます。
ワークフロー
クライアント属性の設定、保存、利用の流れは以下の通りです。
1. クライアント属性の設定
クライアントが EMQX に正常に接続すると、EMQX は接続および認証イベントをトリガーし、この過程で事前定義された設定に基づきクライアント属性が設定されます。
2. クライアント属性の保存と破棄
設定された属性はクライアントセッションの client_attrs
フィールドにキー・バリュー形式で保存されます。クライアントセッション終了時にこれらの属性は削除されます。
永続セッションの場合、クライアントが引き継ぐ際にセッション内のクライアント属性は置き換えられ上書きされます。それ以外にクライアント属性を変更・削除する方法はありません。
3. クライアント属性の利用
EMQX の他の機能では、関連設定項目内で ${client_attrs.NAME}
プレースホルダーを使用し、属性値を動的に抽出して設定やデータの一部として利用できます。
クライアント属性の設定
クライアントが EMQX に正常に接続すると、接続および認証イベントがトリガーされ、事前定義された設定に基づきクライアント属性が設定されます。現在、以下の2つの方法がサポートされています。
- クライアントメタデータからの抽出
- クライアント認証プロセス中の設定
クライアントメタデータからの抽出
事前設定により、ユーザー名やクライアントIDなどのクライアント接続メタデータから部分文字列を抽出・加工し、クライアント属性として設定します。この抽出は認証処理の前に行われ、HTTP リクエストボディテンプレートや SQL テンプレートでの認証・認可リクエスト作成時に利用可能な状態となります。
クライアント属性機能は設定ファイルまたはダッシュボードから設定可能です。ダッシュボードで属性抽出を設定するには、Management -> MQTT Settings をクリックし、Client Attributes で Add をクリックして属性名と属性式を追加します。
ここで、
- Attribute は属性の名前です。
- Attribute Expression は属性を抽出するための設定式です。
属性式は Variform expressions と 事前定義関数 を用いて動的に値を処理できます。例:
- ドット区切りのクライアントIDのプレフィックスを抽出:
nth(1, tokens(clientid, '.'))
- ユーザー名の一部を切り出す:
substr(username, 0, 5)
対応する設定ファイル例は以下の通りです。
mqtt {
client_attrs_init = [
{
expression = "nth(1, tokens(clientid, '.'))"
set_as_attr = clientid_prefix
},
{
expression = "substr(username, 0, 5)"
set_as_attr = sub_username
}
]
}
属性式で設定可能な値は以下の通りです。
clientid
: クライアントIDusername
: ユーザー名cn
: TLS 証明書の CN フィールドdn
: TLS 証明書の DN フィールドuser_property.*
: MQTT CONNECT パケットの User-Property から属性値を抽出(例:user_property.foo
)zone
: MQTT リスナーから継承されるゾーン名
クライアント属性設定の詳細は EMQX Enterprise Configuration Manual を参照してください。
クライアント認証プロセス中の設定
クライアント認証の過程で、認証結果に基づきクライアント属性を設定できます。現在サポートされているのは以下です。
- JWT 認証:トークン発行時のペイロード内
client_attrs
フィールドにクライアント属性を設定 - HTTP 認証:HTTP 認証成功レスポンスの
client_attrs
フィールドにクライアント属性を設定
属性のキーと値は文字列である必要があります。この方法により認証結果に応じて動的に属性を設定でき、利用の柔軟性が向上します。
認証データのマージ
両方の方法や複数の認証器を用いてクライアント属性を設定する場合、EMQX は属性名と設定順に基づいて属性をマージします。
- クライアントメタデータから抽出した属性は認証器によって設定された属性で上書きされます。
- 認証チェーン内で複数の認証器が属性を設定する場合、後に設定された属性が前のものを上書きします。
クライアント属性の活用
EMQX の他機能では、${client_attrs.NAME}
プレースホルダーを用いてクライアント属性を抽出し、設定やデータの一部として利用できます。現時点ではクライアント認証・認可のみ対応しており、今後さらに機能拡張が予定されています。
クライアント認証
SQL 文、クエリコマンド、HTTP リクエストボディで 認証用プレースホルダー を動的パラメータとして利用可能です。例:
# MySQL/PostgreSQL - 認証クエリ SQL
SELECT password_hash, salt, is_superuser FROM mqtt_user WHERE sn = ${client_attrs.sn} LIMIT 1
# HTTP - 認証リクエストボディ
{
"sn": "${client_attrs.sn}",
"password": "${password}"
}
具体的な使い方は各認証器のドキュメントを参照してください。
TIP
クライアント認証ではクライアントメタデータから設定された属性のみ利用可能です。
クライアント認可
SQL 文、クエリコマンド、トピックで 認可用データクエリプレースホルダー および トピックプレースホルダー を利用可能です。
利用例シナリオ
クライアントごとに role
、productId
、deviceId
といったクライアント属性を設定し、認可チェックに利用します。
- role:クライアントのアクセス権限を制限し、
admin
ロールのクライアントのみが管理メッセージ(例:admin/#
にマッチするトピック)をサブスクライブ・パブリッシュ可能とする。 - productId:クライアントが現在の製品に対応する OTA メッセージ(例:
OTA/{productId}
)のみをサブスクライブ可能とする。 - deviceId:クライアントが自身に属するトピックのみパブリッシュ・サブスクライブ可能とする。
- パブリッシュ:
up/{productId}/{deviceId}
- サブスクライブ:
down/{productId}/{deviceId}
- パブリッシュ:
認可 - 組み込みデータベース を用いて以下のルールを設定し実現します。
許可 | 操作 | トピック |
---|---|---|
Allow | Subscribe & Publish | ${client_attrs.role}/# |
Allow | Subscribe | OTA/${client_attrs.productId} |
Allow | Publish | up/${client_attrs.productId}/${client_attrs.deviceId} |
Allow | Subscribe | down/${client_attrs.productId}/${client_attrs.deviceId} |
クライアントIDのような静的プロパティを直接使うよりも、こちらの方法はクライアント認可をより柔軟に管理できます。これにより、異なるロール、製品、デバイスに基づく細かなアクセス制御が可能となります。